アクロ体操の正式名称を、Acrobatic Gymnasticsといいます。このAcrobaticsのacro-には「先端の、最高の」という意味があります。たとえば、恐怖症(phobia)の一つである「高所恐怖症」のことを。英語では、acrophobia(アクロフォビア)といい、また、お国なまり(dialect)とacroを組み合わせたacrolect(ある集団が用いるもっとも有力な方言の意)という言い方もあります。
すでに一般に普及している体操競技、新体操に次ぐ第3の体操として、アクロ体操を位置づけ、今後このスポーツが日本でも定着し、それこそ体操界のアクロ(先端をゆく最高の)スポーツとして発展することを願って命名したものです。
体操競技では、とくに女子の場合は15歳が限界とされ、それ以上になると、体力的にも技術的にも下り坂になり、20歳に満たないうちに選手生活から引退するというのが現状ですが、アクロ体操の場合は、年齢の制限というものはあまりありません。年齢とともに、選手の発育がすすみ、体重がふえても選手活動を続けることができます。たとえば、女子トリオや男子グループでは全員が小柄であれば演技は成り立ちません。
実際、世界選手権に出場してくる選手のなかには、20歳から30歳代の女性の選手や、男子においては40歳を越えてもなお現役の選手として活躍している人もいます。このように、かなりの長い期間にわたって楽しむことができるスポーツといえます。
のぼり方には、いくつかの方法があります。ここではもっとも一般的なのぼり方について説明します。
女子トリオの場合は、下段のピッチ(上に押し上げる)と、中段の引き上げの組合せでおこないます。下段の人は、片手で自分の肩に立っている人の脚を押さえ、もう一方の手を最上段に上がる人の踏み台となるように自分の大腿上に固定させます。最上段に上がる人は、中段の人の手をにぎります。このときの手の組み方は、両手を交差させておきます。片足は下段の手の上に軽くのせておきます。これで準備ができました。ここから3人が同時に動作を開始します。最上段の人がステップ・アップするとき、中段の人は引き上げに入り、下段の人は片手で押し上げます。最上段の人は一気に中段の人の肩上に立ち上がります。
男子グループ(4人)の場合は、トリオでのピラミッドのように、一気に最上段に上がるというわけにはいきません。
そこで、まず最上段に立つ人は、すでに3段ピラミッドをかまえている人たちの真後ろに立って動作を開始します。最上段になる人は、土台になる人のふくらはぎに足をかけます。中段の人は最上段になる人の両手をにぎり、踏み上がろうとすると同時に引き上げ、土台の人の肩上にのぼらせます。このように、同じ動きを中段から上段に、そして最上段へとくり返しおこなってピラミッドを完成させます。この人間ピラミッドの最上段になる人の目の高きは7メートル近くにもなります。アクロフォピア(高所恐怖症)でない人でも恐ろしくなる、手に汗をにぎるスリルある演技といえるでしょう。
最近、体操競技においても、まっすぐに近い倒立をおこなうようになってきましたが、ここに見られるような垂直な倒立は2人でおこなうからこそ可能になる、アクロ体操ならではの倒立といえます。
この倒立のカギとなるのが、お互いの手の組み方です。組み方は、お互いの人差し指と中指で相手の手首をはさむようにしてにぎります。この形でお互いが強く引っぱり合いながら、微妙に倒立のバランスを保っているのです。
宙返りした人をまともに受け止めたのでは、どんな大男でも参ってしまいます。たとえば、キャッチボールでとんできたボールを受け止めるとき、無意識に手を前に出し、受け止めると同時に手を引いて、ショックをやわらげます。これとまったく同じことです。
アクロ体操の場合は、腕だけでなく膝の屈身なども合わせながら、身体全体のバネを利用しておこなうことになります。
アクロバティックな動きという点では、日本でも、歌舞伎の殺陣に見られるトンボ返り、越後獅子舞、サーカスの曲芸など、芸能の分野で古くからおこなわれていますが、これらはあくまでもそれぞれの領域にとどまり、単なる見せものにしかすぎなかったわけです。
ループでおこなうアクロ体操にしても、運動会や体育祭でよく見かける組体操がその原点にあるだけに、日本にもアクロ体操につながる類いのものがすでに芽生えていた、といってもよいのではないでしょうか。
アクロ体操の演技には、大まかに3つの要素があります。
最初の徒手体操は、すでに以前からおこなわれ、一般化しています。次のバレエやダンスの動きは、体操競技の女子の床運動に組みこまれていますが、アクロ体操ではこの動きが大変重要な要素になり、男女ともに身につけなければなりません。グループでおこなう要素がもっとも興味深いところですが、簡単にいいますと、この動きは組立体操が基本となっていますので、基礎練習としては、組立体操ののぼり方、おり方などを中心におこなうことです。これは小学生以上であれば誰にでもできる楽しい体操です。
以上、いずれもすでに経験していることであって、特段、アクロ体操に違和感はないはずです。
(池上 正郷)
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